”8割が就職の「勝ち組」新入社員の意識調査”への疑問

新入社員の77%が自らを就職活動での「どちらかといえば『勝ち組』」と考えている。財団法人社会経済生産性本部が、22日までにまとめた新入社員の意識調査で分かった。

これとは逆に毎日は「2割が負け組と思っている」にフォーカスした報道をしていたりする。このblogでも記事にしてしまったのだけれど、この調査にちょっと疑問が浮かんできた。

それは、この設問の選択肢って「勝ち組だと思う」「どちらかと言えば勝ち組だと思う」「どちらかと言えば負け組だと思う」「負け組だと思う」の4つしかなかったんじゃないか?ってこと。

てなわけでちょっと調べてみた。この調査の主体である財団法人社会経済生産性本部のホームページのニュースリリース。ここからPDFファイルで調査結果の本文に飛べるのだけれど、質問紙本文は掲載されていない。この時点で少なくとも、いわゆるアカデミックなリサーチャーは調査に関わっていないんじゃないかなって思ってしまうのだけれど(*1)。で、肝心の箇所については、

9.新入社員の77%が「勝ち組」、四年制大卒の22.1%は「負け組」
もう一つの今年限りの質問「あなたは、就職活動において自分を『勝ち組』だと思いますか、負け組』だと思いますか?」(Q33-3)には、全体の77.1%が「どちらかといえば『勝ち組』」と回答した。最終学歴による偏差を見ると、各種学校卒(88.9%)、短期大学卒(84.0%)が高かった(以下省略、学歴別の傾向の分析)。

とあるだけ。これだけじゃ、ちょっと選択肢の数は分からないのだけれど、別の項目をみると、

7.生活価値観──“自分らしさ”を大切に
一般的な生活価値観について16 の質問をした(Q30)。四段階のうち「そう思う」「ややそう思う」の合計%で順位づけると・・・(以下省略)

っていう下りがあった。少なくとも、つまりこの設問の選択肢は「そう思う」「ややそう思う」「あまりそうは思わない」「全くそうは思わない」っていう感じの4段階ってこと。

これ以降は推測になってしまうのだけれど、質問紙内でリッカート法を用いた設問群の選択肢数を変えることというのは滅多にない。
だからやっぱりこの質問って、「勝ち組だと思う」「どちらかと言えば勝ち組だと思う」「どちらかと言えば負け組だと思う」「負け組だと思う」の4つしか選択肢がなかったのじゃないかって思う。だとすれば、新入社員の人たちの多くが「どちらかと言えば勝ち組だと思う」って回答するのはむしろ自然なことじゃないだろうか。で、志望業界に入れなかった人は「どちらかといえば負け組だと思う」って回答するんじゃないだろうか。「まだ分からない」っていう選択肢がない限りは、どちらを選らばざるをえない。

もしも、この推測があたっていたとしても、調査主体を責めるのは間違いだと思う。多分に確信犯的なところはあるけれど。4段階のリッカート法なんて珍しくないし、むしろ5段階にしたらやたらと3をつけたがる日本人に対しては有効な方法ではないかなとすら思う(*2)。むしろ、悪いのはセンセーショナルな字面に踊らされた僕ら自身じゃないだろうか。それらしい名前の調査主体(財団法人っていうお墨付きもあるし)が調査していて、共同通信経由でYAHOOや日経に配信されているから、字義通り読んでしまっていいんだろう、みたいな。こんな事じゃあ民主主義も危うい、危うい(興味ないけれど)。
僕自身かなり反省しました。社会調査に多少なりとも関わっている人間として無防備に2次、3次の引用をしてしまったのは恥ずかしいとしか言いようがない。学部時代に読んだこれでも読み返して明日は座禅でも組もう。

リサーチ・リテラシーのすすめ 「社会調査」のウソ (文春新書)

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*1:まあ勝ち組という回答者の中で意味のコンセンサスがとられているかどうか微妙な言葉を使う時点で妙なのですが

*2:まあリッカート法〜相関とかとるって分析スタイル自体、社会調査においては有効であるか個人的には疑問はもっているけれど